介護職として働くとき、施設のタイプによっては看取りケアに関わる場面があります。人の死に向き合うことへの恐れや、「自分に務まるだろうか」という不安は、多くの人が抱くものです。この記事では、医療的なケアの方法論には一切踏み込まず、職員としてどう心を備え、つらさをチームでどう支え合うかという働き方・心構えに絞って解説します。看取りは一人で担うものではありません。抱え込まないための考え方と、職場選びの視点を整理します。
この記事でわかること:
- 看取りに関わる職員が抱く不安の正体と、それが自然なものである理由
- つらさを一人で抱え込まないための、チームと相談先の使い方
- 看取りを支える体制があるかを見極める、職場選びの視点
結論:看取りは「一人で背負う」ものではない
看取りケアに関わることへの不安の多くは、「その重さを自分一人で背負わなければならない」という感覚から来ています。しかし実際の看取りは、職員一人で担うものではなく、チームの職員、医療職、そしてご家族とともに関わるものです。この前提を最初に押さえることが、心の準備の出発点になります。
まず健康が最優先です。 気持ちの落ち込みが長く続く、眠れない、食欲が落ちるといった状態が数週間続いているなら、この記事を読み進めるより先に、産業医や医療機関、厚生労働省の働く人のメンタルヘルス相談窓口「こころの耳」などの専門家に相談してください。心身の不調は気の持ちようで解決するものではありません。
そのうえで、看取りへの向き合い方は「今の職場で関わり続ける/フォロー体制のある職場へ移る/看取りの機会が少ない施設タイプへ働き方を変える」という3つの選択肢で整理できます。この記事は、抱え込まずにこの3択を考えるための材料を並べます。
この記事で伝えたいことを、先に整理します。
| 論点 | この記事の立場 |
|---|---|
| 看取りが怖い・つらい | 自然な反応であり、向き不向きの問題ではない |
| つらさへの対処 | 一人で抱え込まず、チーム・相談先を使う |
| 心身の不調が続くとき | 我慢せず、産業医・医療機関など専門家へ |
| 職場選び | 職員を支える体制があるかを確認する |
なお、この記事では看取りの場面での具体的なケアの方法や、医療的な対応については一切扱いません。それらは職場での研修や、医療職の指示のもとで学ぶべき領域です。ここで扱うのは、あくまで「職員が自分の気持ちをどう支え、チームでどう乗り越えるか」という働き方の部分だけです。
「怖い」「つらい」は、弱さではなく自然な反応
看取りに関わることへの恐れを、「自分が弱いからだ」「プロなのに情けない」と受け止めてしまう人がいます。しかし、担当してきた方が少しずつ人生の最終盤に向かう姿を傍らで見ることに、心が動かない人はいません。人の死に対する恐れや悲しみは、誰にでもある自然な反応です。
むしろ、その方の生活と人生に真剣に関わってきたからこそ、つらさを感じるのだと言えます。感情が動くこと自体を問題視する必要はありません。大切なのは、その気持ちを否定して押し込めるのではなく、認めたうえで、抱え込まずに扱うことです。
ここで一つ、はっきりさせておきます。**つらさを感じることと、職員として役割を果たせることは、両立します。**気持ちが動いても、目の前のその人に穏やかに関わることはできます。「動揺してはいけない」と自分を追い込むのではなく、「動揺するのは当然、そのうえでできることをする」と考えるほうが、結果的に落ち着いて関われます。
つらさを抱え込まないための3つの支え
看取りのつらさを緩和する最大の方法は、一人で抱え込まないことです。具体的な支えは、大きく3つあります。
1. チームで分かち合う
看取りは一人で行うものではありません。同じ利用者に関わる職員同士で、感じたことやつらさを言葉にして分かち合うことが、重圧を軽くします。「こんなことを感じるのは自分だけかもしれない」という孤独感が、実は最もつらさを増幅させます。同僚と話すことで、それが共通の感情だと分かるだけでも救われます。
2. 職場の面談・相談の機会を使う
多くの職場では、看取りに関わった職員へのこまめな声かけや、個別面談といったフォローの仕組みがあります。こうした機会を「大げさだから」と遠慮せず、積極的に使ってください。気持ちを言葉にして誰かに聞いてもらうこと自体が、状況を整理する助けになります。
3. 専門家への相談を選択肢に持つ
気持ちの落ち込みが長く続く、眠れない、食欲が落ちるといった状態が数週間続く場合は、我慢せず専門家に相談してください。相談先には、職場の産業医、医療機関、そして厚生労働省が運営する働く人のメンタルヘルス相談窓口「こころの耳」などがあります。心身の不調は気の持ちようで解決するものではありません。早めに専門家を頼ることは、プロとして長く働き続けるための正当な自己管理です。
ケーススタディ:初めての看取りに向き合った遠藤さんの場合
特別養護老人ホームで働き始めて1年の遠藤さんは、担当していた利用者が看取りの段階に入ったと聞き、強い不安を感じていました。「自分が動揺して、うまく関われなかったらどうしよう」「その場に立ち会うのが怖い」。そんな気持ちを誰にも言えず、一人で抱えていました。
転機は、先輩の一言でした。ある日、表情がこわばっている遠藤さんに先輩が「不安だよね。私も最初はそうだった」と声をかけました。遠藤さんが正直に恐れを打ち明けると、先輩は「その気持ちは当たり前だし、一人で背負うものじゃない。私たちも一緒にいるから」と返しました。この「一人じゃない」という言葉が、遠藤さんの肩の力を抜きました。
遠藤さんは、感じたつらさをチームで共有するようになりました。看取りに関わった後には、職場の面談で気持ちを言葉にし、同僚とも率直に話しました。「悲しいと感じていいんだ」と自分に許可を出せたことで、感情を押し込めて疲弊する状態から抜けられたと言います。
一方で遠藤さんは、しばらく寝つきが悪い時期があったとき、それを放置せず職場に相談しました。無理を重ねる前に手を打ったことで、大きく崩れることなく働き続けられています。
遠藤さんの例が示すのは、看取りに強くなるとは、つらさを感じなくなることではなく、つらさを一人で抱えずに扱えるようになることだということです。
看取りに関わる前に整理しておきたい3つの誤解
看取りへの不安を大きくしているのは、いくつかの思い込みであることが少なくありません。事前に手放しておくと、心の負担が軽くなる誤解を3つ挙げます。
誤解1:「動揺してはいけない、平静でいなければ」
看取りの場面で感情が動くのは自然なことで、それを完全に抑え込む必要はありません。むしろ、感情を無理に押し殺し続けるほうが、後になって心の消耗として表れやすくなります。動揺する自分を責めるより、「動揺しても、目の前でできることをする」と考えるほうが健全です。
誤解2:「もっと何かできたはずだと、後で必ず後悔する」
看取りに関わった後、「あのときこうすれば」と考えてしまうことはあります。しかし、その方の傍らに誠実にいたこと自体に意味があり、完璧な対応というものは存在しません。後悔の気持ちが浮かんだら、一人で反芻せず、チームで振り返る場に持っていくことが大切です。
誤解3:「慣れれば何も感じなくなる、それがプロだ」
経験を重ねても、つらさを感じなくなるわけではありません。看取りに強くなるとは、感情を消すことではなく、その感情を一人で抱えずに扱えるようになることです。何も感じない状態を目指す必要はありません。
これら3つの誤解を手放すだけで、「完璧でなければ」という自分への過剰な要求が和らぎ、看取りに向き合う心の余白が生まれます。